PM人材育成

PM研修に出す前に、社内で決めておく5つのこと

研修が効かない原因は、たいてい発注する前にあります

厚生労働省の令和7年度「能力開発基本調査」(2026年7月31日公表)では、正社員に対してOFF-JT(通常の業務を離れて行う訓練)を実施した事業所は60.6%ありました。一方で、能力開発や人材育成に関して何らかの問題があるとする事業所は80.1%にのぼります。研修は広く行われているのに、問題は8割の事業所に残っている、という状態です。

研修が効かなかったとき、原因は研修の中身より前の段階にあることが少なくありません。誰を出すかを空き具合で決めていた、現場の困りごとを言葉にしないまま相談していた、受講後に使う場を用意していなかった。どれも研修会社では手当てできず、発注する側でしか決められないことです。

ここでは、見積りを取りに行く前に社内で決めておくことを5つに分けて整理します。この5つが決まっていれば、研修に渡す要件は1枚にまとまります。

1. 誰を出すかを、手の空き具合で決めない

新任のPM、複数案件を束ねる中堅、PMOや管理職では、必要な中身がまるで違います。ところが受講者の選び方でよくあるのは「いま案件が薄い人」を出すというものです。枠は埋まりますが、学んだことを使う場が本人の手元にありません。

決め方はひとつです。受講後3か月以内に、その人が担当する案件と役割を先に書きます。書けないなら、今回は出さない。研修は在庫にできないので、使う予定のない人に受けさせると、その分がそのまま消えます。

階層を混ぜるかどうかも先に決めます。新任と中堅を同じ回に入れると、演習の前提がそろわず、どちらかが手持ち無沙汰になります。人数をまとめたいという理由で混ぜると、たいてい両方に薄くなります。

2. 現場の困りごとを、研修で扱える言葉に直す

「PMのレベルが低い」「マネジメントができていない」という状態のまま相談に行くと、返ってくるのは一般的なカリキュラムです。研修会社にはそれ以上の材料がないので、当然の結果になります。

直し方は3段階です。起きている事象を書く、それがどの工程で起きているかを特定する、その工程で必要な手当てを言葉にする。この形にすると、研修に渡す要件が具体的になり、提案の差も見えるようになります。

工程の切り分けに迷うときは、実務の手順から逆に当てるのが早いです。見積りのばらつきはWBSの作り方、報告の遅れは進捗管理、後手に回るトラブルはリスク管理、合意が取れない状態はステークホルダー管理が対応する工程です。

現場の訴えを、研修に渡せる言い方へ直す

現場からよく出る訴え実際に起きている工程研修に渡すときの言い方
見積りがいつも外れる作業の分解が粗く、見積りの単位がそろっていない成果物単位で分解し、見積りの単位をそろえる演習を入れてほしい
報告が遅い、遅れが直前に分かる進捗率が体感で申告され、判定の基準がない進捗の判定基準を決め、報告フォーマットを統一する演習を入れてほしい
トラブルが起きてから慌てるリスクが登録されず、対応方針が決まっていないリスク登録簿の起票と、対応方針の選び方を扱ってほしい
関係者の合意が取れない誰が決める人かが整理されていない関係者の特定と、関与方針の設計を扱ってほしい
左から右へ書き換えるだけで、提案の中身を比べられるようになる。工程が特定できないうちは、研修ではなく現場の実態調査が先になる。

3. 受講後にどの案件で使わせるかを、先に決める

研修は受けて終わりにすると、数週間で元に戻ります。戻る理由は本人の意欲ではなく、使う場が用意されていないことです。学んだ手順は、実際の案件で1回通さないと手に残りません。

決めておくのは2つです。受講後3か月以内に、学んだ手法を使う案件をひとつ指定すること。そして、その案件で本人が作る成果物を先に決めておくこと。WBSの分解を学ばせるなら次の案件の分解を本人に引き取らせる、進捗管理を学ばせるなら週次報告の作成を任せる、という形です。

上長のレビューを1回、日程に入れておくとさらに残ります。受講直後ではなく、実際に手を動かした後に見るのが要点です。ここは研修会社の仕事ではなく、発注した側が設計する部分になります。

受講後にOJTへ接続する最小の設計

  1. 1案件を指定する受講後3か月以内に、学んだ手法を使う案件をひとつ決めておく。
  2. 2成果物を決めるその案件で本人が作るもの(WBS、週次報告、リスク登録簿など)を先に決める。
  3. 3レビューを日程に入れる手を動かした後に、上長が1回見る場を作る。受講直後ではなく実作業の後に置く。

4. 社内の段取りは、日程を押さえる前に片づける

研修の話が止まる原因は、内容より社内の段取りにあることが多いです。見積りが出てから決裁で止まる、日程が現場の繁忙とかぶって人が集まらない、という形で表に出ます。

先に決めるのは3つです。日程(現場の繁忙期と重ならないか)、費用の出どころ(部門予算か全社の教育費か)、そして公的な助成を使うかどうか。国の人材開発支援助成金を使う場合、職業訓練実施計画届を提出したうえで訓練を実施し、その後に支給申請するという流れになっています。届出を誰が担当するかを、日程を確定する前に決めておきます。

助成の対象コースや要件は年度ごとに改正されます。使う予定があるなら、その年度の要件を担当者が読む時間も段取りに入れておくのが確実です。

5. 何をもって効果があったとするかを、受講前に書く

受講後アンケートの満足度は、その場の手応えは分かりますが、業務が変わったかどうかは分かりません。効果の見方は、受講前に決めておきます。

見るのは業務の成果物です。週次報告の書式がそろったか、リスク登録簿に起票が出るようになったか、WBSの粒度が作業単位から成果物単位へ変わったか。どれも研修の前後で現物を並べられます。

そのために、受講前に現状のサンプルを1つ保存しておきます。いまの週次報告、いまのWBS、いまのリスク登録簿。3か月後に同じものを並べれば、変わったかどうかは説明なしで分かります。比べる型が手元にないときは、週次進捗報告フォーマットのような既定の書式を基準に置くと早く始められます。

この5つが決まってから、発注に進みます

5つが決まると、研修会社に渡す要件は1枚にまとまります。誰を出すか、どの工程を扱ってほしいか、受講後にどの案件で使わせるか、日程と費用の枠、そして効果をどう見るか。この5点が書かれた紙があるだけで、提案の中身は各社で分かれます。

逆にこれが無いまま相談に行くと、出てくる提案は横並びになり、比べられるのは価格と知名度だけになります。研修選びが難しいと言われるとき、その多くは選ぶ側の要件が決まっていないことに起因しています。

受け直しがいちばん高くつきます。決めるのに要するのは半日ほどで、やり直しの費用と時間よりはるかに小さい投資です。

発注前に社内で決める5つ

  1. 1誰を出すか受講後3か月の担当案件と役割を先に書く。書けないなら出さない。
  2. 2何を扱ってもらうか現場の訴えを、事象・工程・必要な手当ての順に言い直す。
  3. 3どこで使わせるか受講後に使う案件と、本人が作る成果物、レビューの場を決める。
  4. 4社内の段取り日程・費用の出どころ・助成金の届出担当を、日程確定の前に決める。
  5. 5効果の見方業務の成果物で見る。受講前に現状のサンプルを1つ保存しておく。

出典・参考

公開情報および各機関の一次情報をもとに、PMアンカー編集部が作成・更新しています。事実関係は出典を明記し、内容は定期的に見直しています。